失われたお気に入りの景色
少し前まで、まるで深い森に囲まれているかのような家だった。
その素晴らしい景観が、近隣の宅地造成によって大きく損なわれ
住んでいたご夫婦は、引っ越しを考えたほど思い詰めていたという。
そんなタイミングで庭づくりのご依頼をいただいた。
限られた空間で、できるだけ景観の回復を試みることがプランの主軸となった。
加えて、1つ提案をした。
「お客様が生まれ育った土地の”原風景”を織り交ぜた庭を、つくりませんか?」。
気に入っていた住まいから引っ越そうと考えたほど、ご夫婦はストレスを抱えていたご様子。
少しでも心が和らいでほしい。そう思っての提案だった。
ご快諾いただいてから、お2人のことをいろいろと尋ねた。
生まれ育った町や幼少期に好きだったこと、ご両親とのやり取り…
思い出話に花が咲く。
奥さまの原風景は、北海道にある。
見渡す限り広がる十勝平野。
その奥には深く濃い緑——防風林。さらにその背後には日高山脈が連なる。
平野と林、山々が織りなす景色。
早速庭づくりに取り掛かった。
宅地造成により失われた森の景観を再現しながら、
手前につくり込んだコケで平野を
草木や石で林や山脈を表現した。
気を配ったのは、「調和」。
以前の森の景観、帯広の風景、更にお客様の希望で取り入れた植物とがうまく馴染まなければ、まとまりのない庭になってしまう。
その辺りのバランスを取りながら、壺や石臼をアクセントに置いたりと
わくわくする空間になるよう工夫した。
お客様には、「イメージしていた通りになった」と喜んでいただけた。
森の中で暮らしていたような以前の感覚、そして子どもの頃の原風景。
これから、暮らしの中で感じてもらえたらと思う。