不動産開発ではげ山に
北海道・帯広の風景を表現したお隣のお宅も、宅地造成によって損なわれた景観に悩まれていた。
「久しぶりに我が家に帰ってきたら、リビングから見える景色が一変していました」。
お客様が、切り出した。
そこは都市部の住宅街にありながら、別荘地のような
ちょっと特別感のあるお家。
元々なだらかな山だったところを、少しずつ分譲して生まれた土地に建てられた家で
リビングにいると、まるで深い森の中にいるようだった。
お客様がたまたま留守にしていた数日間で
自宅の眼下に広がる森は、はげ山になってしまったという。
「近隣の家や信号機、道行く人までが丸見えになってしまい
今では、数百メートル離れたマンションの人影まで気になるようになった。
この問題を、何とか解決できないか」
――そんなご依頼だった。
切り株で育っていた新芽
私は現地の周りを歩き、交通状況や道行く人々の観察を始めた。
庭をつくっても、街並みと調和しなければ台無しになってしまうと思った。
はげ山自体も観察し、何がベストのプランニングかを考え続けた。
そんな時、はげ山に残された切り株に目が留まった。
地面ぎりぎりまで切られてしまった大木の断面に、新芽が芽吹いていた。
この木が生きているのだから、絶対生かした方がいいと思った。
それから、できる限り自然の回復力にゆだねてみることを
庭づくりの基本にしようと決めた。
時間はかかるけれど、それならば周辺環境にも調和する。
お客様には、造成工事で処分されてしまう草木を譲ってもらえるよう
不動産会社からの許可を取ってもらった。
お客様の敷地に植え替え、庭としてよみがえらせるためだ。
そして、リビングからの景色や
今後回復していく切り株との距離
外からの眺めなどを考慮して、新たに数本の草木を植えた。
森の成長、見守る楽しみも
庭が完成して、お客様は
「人の視線とか、気になっていたものがなくなって本当によかった」
「毎朝、犬と散歩するたびに植物の変化が感じられるようになって、楽しい」
と喜んでくださった。
森が育っていく様子を見守る楽しみも、生まれた。
何よりお客様が、楽しくお手入れができる森になっていってほしいと思う。